『私がセックスしない理由(わけ) 』 シナリオ(第二場〜)

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第二場

忘れ物を取りに蘭子が戻ってくる気配もないまま、2人は風呂にも入り、セックスへの準備は万端となった。
しかし幼なじみだった34年間の重みは、そうそう簡単に次の行動に移させてはくれない。
照れと恥ずかしさでおかしな行動をとり続ける2人は、まず気持ちを落ち着けようとお酒を飲むことに。
次第に昔話に花を咲かせ、和やかな雰囲気になる2人だったが、環が就職祝いにあげた限定発売の超高額ジッポを、三太が大昔に無くしてしまったことが原因で大ケンカになってしまう。
三太はしどろもどろになりつつも、無くしてない! と強弁にいい張るのだが、「だったら見せてよ」といわれても、「ここにはないから」と一向に見せようとしない。
せっかくのいいムードが一変し、険悪になる2人。
そんな中、突然玄関のチャイムが乱暴に鳴る。
ドンドンドンドン! とドアを叩く音も聞こえ、幸子が大泣きしながら走りこんでくる。同棲相手の売れない俳優・平山貴昭(35)とケンカをしたのだ。
一緒にDVDを見ていたはずのモモ子とバラ子に、環は「なにがあったの?」とこっそり尋ねるが、別の部屋でDVDを観ていたモモ子とバラ子には、なにがあったのは皆目見当がつかないらしい。
そこへ、幸子を連れ戻しに貴昭がやってくる。帰ろうという貴昭に、「いやや! うちここに泊まる! 環ちゃん、カン様のDVDあげるから、今日ここに泊めてくれへん?」などと言いはじめる幸子。
泊まられたら元も子もないので、仕方なくケンカの仲裁を始める三太と環。

幸子は、貴昭の元彼女であり、彼が所属する劇団の座長との仲を疑っていた。貴昭が頻繁に彼女と連絡をとり、2人で出かけている現状を見続けているとき、幸子は自分の妊娠を知った。
実は幸子には、貴昭も知らなかった驚くような過去があった。
彼女が21歳の時、当時付き合っていた人の子供を妊娠してしまったのだ。
彼は医学部に通う学生だったのだが、大学を辞めて働くから結婚しようといわれ、籍を入れた。しかし現実は甘くない。中途半端に大学を辞めてしまった彼には、まともな就職先などあるはずもなかった。町外れの小さな工場に勤め始めたのだが、彼はその生活に半年と耐えられず、お腹の大きい幸子を置いて、「タバコを買ってくる」と言ったっきり帰ってこなかった。
大きなお腹を抱え、途方にくれて彼の実家に電話をしても、「息子の将来は、あんたのせいでぶち壊しや!」といわれ、幸子は次第に、お腹の子さえいなかったらと思い始める。
何度も何度も自分のお腹を拳固で叩いたり、アパートの階段から落ちたらこの子は死ぬのかなぁと考えたりした。
実際は死産だったのだが、自分は人殺しだ、今お腹の中にいる貴昭の子供も殺してしまうと思いつめるようになっていた。
そんな幸子に貴昭は、「オレ、役者やめることにしたんだ」と唐突に告白する。
あまりのことに驚きを隠しきれない幸子。
貴昭はこのところずっと、芝居をやめてちゃんと就職をしようと考えていた。座長にそのことを伝えると、今度制作会社を立ち上げることになったので、そのスタッフとして裏から芝居を作ってみないかと誘ってくれたのだ。社員だからきちんと給料も払うからと。
幸子にいえなかったのは、心から俳優・平山貴昭を応援してくれていると知っていたからだった。
「昔のこと、忘れられないのは仕方がない。でもなかったことには出来ないんだから、しっかりと前を向いて、今度こそ後悔しないように進んでいくしかないと思う。・・・結婚してください」
貴昭の精一杯のプロポーズに、オズオズとうなずく幸子。

幸子たちが帰り、またもや2人になる三太と環。
すると環が突然「私が部長に振られた日、お兄ちゃんが一緒にいてくれなかったら、私どうなってたかな」とつぶやく。
幼なじみだった2人が、唐突に結婚するに至った直接の理由・・・それは環の不倫だった。
不倫の末に振られた環に、三太がプロポーズしたのだ。
環はずっとそのことを気にしていた。もしかしてお兄ちゃんは、私に同情したのではないか。あのまま放っておいたらなにをしでかすかわからない、だから自分と結婚したのではないか。お兄ちゃんが私に指1本触れないのは、そのことを後悔しているからなのでは?
何度も違うという三太。しかし納得しない環は、「お兄ちゃんは私と結婚して幸せ? 私は分からない。・・・だからセックスしたいの。セックスすればなにかが変わるかもしれない。普通の夫婦になれるかもしれない」といってしまう。
三太は辛そうに顔をゆがめ「お前にとってのセックスってそんなもんだったのか。・・・俺がお前の不倫話聞かされて楽しいと思ってるのか? お兄ちゃんお兄ちゃんって呼ぶな! 俺はお前の兄貴じゃない!」と、声を震わせ、泣き出しそうな顔で家を出て行く。

第三場

1時間が過ぎた。なにも考えられず、椅子に座り込む環。
そのとき玄関チャイムが鳴る。
「お兄ちゃんだ!」と勢い込んでドアフォンをつかむ環だったが、そこにいたのは忘れた携帯を取りに戻った蘭子だった。

夫婦喧嘩は犬も食わないって言うでしょ? と茶化す蘭子に、夫婦じゃないもんと答える環。するとまたまた玄関チャイムがなり、裕子が尋ねてくる。
裕子は慌てふためいて、三太が交通事故に遭い、重体なのだとまくし立てる。
あまりのことに混乱し、呆然とする環に、「環さんすぐ支度して! 保険証どこ?!」と、いても立ってもいられない様子の裕子は、「車で待ってるから早くして!」と飛び出していく。
呆然と座ったまま動こうとしない環に、「保険証は私が探すから、環ちゃんは支度をして」という蘭子。しかしその蘭子を押しのけ、混乱した頭で保険証を探しはじめる環。
リビングにあるチェストの中身を、全て床にひっくり返して探していると、そこには保険証と無くしたはずのジッポが転がっていた。
「・・・どうしてここに? 本当に無くしてなかったんだ・・・」
「環ちゃんからもらったものを、三太が無くすはずないじゃないの」と蘭子が優しくつぶやいた。
「あいつバカだし見栄っ張りだから、いえないのよ好きだって。でもね、言葉よりもっと大事なものを、三太はずっと環ちゃんに注いできてるはずよ。違う?」
蘭子の言葉にジッと聞き入る環の心に、父親が病気で亡くなったときのことが蘇る。
「お兄ちゃんは、泣きたい時は我慢なんてするなよっていってくれた。あとは黙って、朝まで側にいてくれた。あたしの頭をぽんぽんって叩いて、ただ隣にいてくれた。あたしの中でそれが当たり前になってて、お兄ちゃんがいなくなるなんて考えたこともなかった」
環はやっと、自分がどれほど三太を必要としていたのかということを理解し始める。

するとそこに、事故に遭ったはずの三太がひょっこり戻ってくる。事故が誤報とわかりホッとする一同だったが、蘭子たちが帰ったあと、三太も再び出て行くといい始める。
今のままでは2人はやっていけないからと・・・。そんな三太に、環は渡したいものがあるとジッポを手渡す。
実は三太、大切なジッポをいつも近くに持っていたいと、箱に入れ、勤め先に置いていた。しかし環に、自分の本当の想い・・・心から環を愛していると告げるため、握っていれば少しは勇気が出るかもと、大事なジッポを家に持って帰ってきたのだ。その途端、なんの因果か環が家中を整理してしまい、ジッポの行方がわからなくなっていたのだった。探しても探しても出てこなかったジッポが、環の手から渡されたことで唖然とする三太。
環はそんな三太に、今まで気づかなかったけど、私はお兄ちゃんが好き・・・すごく好きだったみたいと告げる。
環の素直さ、率直さに圧倒されつつ、戻ってきたジッポを見つめ、三太は長い間心にしまっていた想いを環に告白する。
2人はついに、本当の夫婦になるための第一歩を、ゆっくりと歩み出したのだった。

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