『厚着の天使と裸の王様』 シナリオ(第二場〜)

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第二場

その日の夕方、外部スタッフのカメラマン・浅田晴彦(29)と写真の打ち合わせのために2人きりになるあい。
なぜか浮かない顔のあいと、それを不思議に思う晴彦。
あいの将来の夢は漫画家になる事だったが、いろんな賞に応募していたにもかかわらず、なんの進展もない日々が続いていた。
そんな時、晴彦が新人カメラマンの登竜門といわれる、ある大きな賞を受賞したという話を聞く。
夢に向ってどんどん進んでいく晴彦を羨ましく思い、妬む心を抑えきれないあい。
ついつい晴彦に対してつっけんどんな態度をとってしまい、「浅田さんのような才能ある人に、どんなに努力しても報われない私の気持ちなんかわからない!」といってしまう。
すると晴彦は、「自分はダメなんだって思ってたら、いつまで経ってもダメなままだよ。逆に、自分は大丈夫だ! と思えば、どんなことだって大丈夫になるもんだよ」と答える。
あいは、「簡単に言わないで下さい! 私とあなたは違うんです!」と怒り出す。
「ごめん、言い過ぎた」と謝る晴彦に、「ごめんなさい。私も言い過ぎました」と謝るあい。
すると晴彦は、「ごめんなさいついでに、あいちゃんに頼みごとしてもいいかな」と、受賞記念として開かれることになった個展のモデルを頼む。
しかしそれはヌードだと言うのだ!

第三場

あいがモデルを頼まれたという事を聞き、おおはしゃぎの瑞穂と香。
晴彦は、3ヶ月の間、あいの仕事もプライベートも全部含めて撮りたいといっている。あいがモデルを引き受ければ、当然仕事場での撮影もある。そうなれば、自分達にもモデルのチャンスが回ってくるのではないかと期待しているのだ。
何度も断りを入れたあいだったが、晴彦は「慌てて答えを出さなくていい。もう少し考えて」を繰り返すばかりで、全く埒が明かない。
どうして自分にモデルを頼むのだろうと不思議がるあいに、「浅田さんは、あいさんが好きなんですよ」とあっけらかんという香。
それならわかる! と納得するあい以外の面々だったが、あいは頑なに「そんなことあり得ません!」と断言する。

そこへ結婚式のプロデュースを頼むため、フリル全開のロリータファッションに身を包んだ高清水有子(29)と、全身大昔のウエスタンスタイルに身を固めた富塚金五郎(34)が打ち合わせのためにやってくる。
まるでギャグマンガのようなスタイルと、信じられないほどのアツアツカップルぶりに、一同唖然の事態に。
そんな中、しばらく席をはずしていた瑞穂が戻ってくる。有子の顔を見た途端、息を呑み、凍りついたように動かなくなる瑞穂。
実は昔、瑞穂の父は、大手運送会社の社長をしていた有子の父の運転手で、瑞穂の家族は、有子の屋敷に住まわせてもらっていた。瑞穂と有子は、いわば幼なじみのような存在でもあり、お嬢様と使用人の娘という関係でもあったのだ。
そして有子は、驚くような事を話し始める。なんと瑞穂は、有子の昔の婚約者を奪い、捨て、そのままいなくなったと言うのだ!

第四場

有子の一件があってから、全く出社しなくなった瑞穂。
あいは瑞穂の代わりに、彼女が担当していた仕事のほとんどを引き受けることとなり、毎日のように残業する日々が続いていた。
あまりの忙しさに晴彦のモデルをやるという一件も、正式な返事をしないまま先延ばしとなっていた。
そのことを武士に聞かれたあいは、「よくわからないんです。やりたいかどうかというよりも、浅田さんって人がよくわからない。大事な個展なのに、何で私なんだろう」と答える。
「今度の個展のタイトル聞いた? 母性っていうんだよ。あいちゃんは晴彦の死んだ母親にとても雰囲気が似てるんだ。いうなれば、あいつはマザコンなんだよな」とあいに笑いかける武士。
晴彦の大学時代の先輩でもある武士は、晴彦の自信過剰とも強引とも見える性格が、どうして出来上がっていったのかを語りだす。
幼いころ、両親が離婚したために母親が出て行ったこと。母親の写真は、そのころの晴彦を抱いて微笑んでいる一枚しかないこと。大人になって、ずっと気がかりだった母の行方を捜すため、探偵を雇ったこと。やっと捜し当てたと思ったときには、すでに母は亡くなっていたこと。なぜもっと早く行動を起こさなかったのかと後悔したこと。もう二度と後悔しないため、全てのことに積極的に生きようと決心したこと。
話し終えたあと、武士はあいに、瑞穂の仕事をみんなで振り分けようと提案する。
するとあいは、「私も今、全てのことを精一杯やりたいと思うんです。それに、仕事を分けたりしたら、瑞穂さんが帰ってこないような気がしてイヤなんです。・・・社長、どうして瑞穂さんに好きだって伝えないんですか?」と、武士にいたずらっぽく微笑みかける。
驚きのあまりにしどろもどろになる武士に、「瑞穂さん以外全員が知ってます」と笑うあい。

突然外出していた香と玲子が事務所に飛び込んできた。興奮状態の香の手には、号外が握られている。それは、瑞穂に結婚を申し込んでいた広田の息子と、超人気女優の電撃入籍のニュースだった!

第五場

外は突然の雨。瑞穂の行方がわからないまま、時間だけが過ぎていった。
心配のあまり、「社長が煮え切らないからいけないんですよ!」と切れるあい。
そのとき、瑞穂がびしょぬれの姿で現われる。

第六場

心配する一同をよそに、明るく振舞う瑞穂。みんなが広田の息子の結婚話を気にしているのだと感じると、「そんなの全然平気。だって私これから合コンに行こうとしてたんだもん」と答える。「そうだ! これからみんなで食事に行きません? 久しぶりだから、そのあとカラオケもいいわね」と楽しそうに話しながら、突然ポロポロと涙を流し始める瑞穂。
「たまには泣いたっていいじゃない。無理に止めるなんてかわいそうよ」と玲子が優しく話しかけると、「違うんです」とつぶやき、瑞穂は静かに自分の過去を語り始めた。

有子が大好きだった。貧乏がコンプレックスだった自分に、有子はいつも優しくしてくれた。みんなの人気者だった有子。そんな有子に親友だといわれて本当にうれしかった。
・・・でも本当は、その優しさが憎かった。彼女はいつも上にいて、そこから私に同情する。親友よねといいながら、決して私のところまで降りてきてはくれない。優しくされればされるほど自分が惨めになり、心がドロドロになる。
だから、有子の顔が醜く歪んでいくところが見たいと思った。大金持ちとの結婚を望んだのも、お金さえあれば彼女と対等になれると思ったから。だから彼女の婚約者を取ったの。望みどおり、彼女は顔を歪ませて「どうしてなの? 瑞穂」っていった。やったって思った。これで私の心のドロドロもなくなるはずだった。なのに、望んだ通りになった結果、私はもっと惨めになっていた・・・。

打ちのめされたように泣き崩れる瑞穂に、武士は「瑞穂ちゃんは有子さんが好きなんだよ。大好きな人だったから、同じところに立って、同じものを見てほしかった。ただそれだけなんだよ。・・・コンプレックスを持ってない人間なんていないし、人の価値観なんて人それぞれだ。幸せを感じるところも人それぞれ。他人と比べちゃダメだよ」と微笑みかけた。

第七場

ゆっくりと心が解けていく瑞穂・・・のはずだったが、人間そう簡単に変わるはずもなく、武士にいわれたことを自分なりに解釈した瑞穂は、「私が大好きになれる大金持ちを捜せばいいんだわ!」との結論に達し、より一層精力的に玉の輿を目指すのだった!
唯一つ変わったことといえば、瑞穂が昔から作っている御曹司&青年実業家リストに番外ページができ、そこに武士の名前が載ったことくらいかもしれない。

バタバタ続きで、未だ晴彦にモデルの件での返事をしていないあい。
「当然モデルやるわよね。私ね、写真写りをよくするために、高いエステにも通ってるの。だから早めにやってちょうだい」と圧力をかける瑞穂。
どう答えていいかわからぬままに呆然としていると、当の晴彦が打ち合わせのためにやってくる。意識してしまい、ついよそよそしい態度をとってしまうあい。

そんな中、突然あいの母・倉沢昭子(44)が会社にやってくる。
あいの父は、病気のためにしばらく前から入院生活を送っていたが、とうとう手術の日にちが決まった。しかしあいは、「お父さんに会いに来て」という母親からの電話も無視し続けていた。手術日が迫り、業を煮やした母親は、ついに会社までやってきたのだ。
「お願いだからお父さんに会ってやって。お父さん、もうダメかもしれない・・・」そんな母の必死の願いも頑なに拒むあい。

実はあいの父は、彼女が小学生の頃、広田幸造の秘書をしていた。その広田に贈賄疑惑が持ち上がった時、父は広田の身代わりとなり刑務所に行った。そのことで壮絶なイジメに遭っていたあい。どんなに父は悪くないと思っていても、イジメられているという事実は変わらない。
「みんな同じことをいう。お父さんの気持ちを考えなさいって。じゃあいったい、私の気持ちは誰がわかってくれるのよ! お母さんは学校で、私がどんな目に遭ってるかなんて聞いてくれたことなかった。いつもいつも疲れてるからあとにしてって・・・。だったら私はどうすればいいの? お母さんが疲れてるのも、私がイジメられるのも、全部お父さんのせいだって思うしかないじゃない! こんな気持ちのままでどうやってお父さんの気持ちを考えればいいの? 自分の心を支えるだけで精一杯なのに!」
次第にあいは、父を憎むことでしか生きていく術を見つけられなくなっていたのだった。

そんなあいに、晴彦は優しく語りかける。
「もう誰もあいちゃんをイジメない。だから言っていいんだ。自分に嘘をつくって本当に疲れるもんな。悲しいなら悲しい。寂しいなら寂しい。それは弱いってこととは違う。自分をさらけ出せる勇気を持ってるってことなんだよ」
晴彦の言葉が、頑なになったあいの心に静かに浸透していった。

第八場

晴彦とあいの結婚式当日。
「天使のつばさ」が総力を挙げてプロデュースした披露宴が、晴彦の個展会場で始まろうとしていた。
列席者に自分のヌード写真を見られるなんて絶対にイヤ! と言い張っていたあいだったが、香の説得で泣く泣く了解。
瑞穂は瑞穂で、新進気鋭カメラマンとなりつつある晴彦には、今金持ちが寄って来ていると豪語し、晴彦の招待客リストから金持ちだけをピックアップして、自分の御曹司&青年実業家リストに書き加えているのだった。

控え室では1人、披露宴の始まりを待つウェディングドレス姿のあい。
手には母から渡された手紙が握られていた。
それは手術後しばらくしてから亡くなった父からの手紙・・・。
静かな時間が流れる中、ゆっくりと手紙を広げて読み始めるあい。

そこには、あいを心から愛する父の言葉が面々と綴られていた。

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