『Natural (MAKOTO)』 シナリオ(第二場〜)

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第一幕/第二場

真が無事高校を卒業し、「ピンクドルフィン」で働き始めてから、早くも4ヶ月が過ぎようとしていた。
「ピンクドルフィン」では、営業前に必ずダンスショーの稽古が行われる。
この日もいつもと同じように稽古するオカマたち・・・のはずだったのだが、なぜかいつもは優しいはずの、ダンサー兼振付師・鈴音が怖い。
片手に柄の長い箒を持ち、振り付けを間違えると容赦なくその箒がオカマたちのお尻に飛んでくるのだ。
いったいどういうことなのよ! と文句を垂れるオカマたちの前に琴美が現れ、全国津々浦々のオカマバーの中から、選りすぐられた10店しか出られない、クリスマス最大の超有名ダンスショー、「全日本超ウルトラスーパーカマフェスティバル『HEY YOU! 歌って踊ってカマナイト』」へのエントリーが決まったと発表する!
あまりの驚きと興奮に盛り上がりまくるオカマたち! これに優勝すれば、もう不況なんて怖くない! 去年優勝した店は、前年度比350パーセント増だったのよ! と、上へ下への大騒ぎがはじまる。

ようやく興奮を抑え、精一杯がんばろうと誓いを新たにする彼女(?)たちだったが、そこに一本の電話が入る。
琴美の弟と名乗る男からだった。
最近この男から頻繁に電話がかかってくるのだが、琴美は一貫して間違い電話だと言い張り、電話に出たあとは気もそぞろとなってしまう。
「ママに弟っているの?」とのさゆりの問いに、「いることはいるんやけど、ママは18歳で家出て、あとは家族と連絡取ってないいうてたから、弟がこの店を知っているはずないんよ」とあんこが答える。
琴美の不自然な態度に不安を募らせるオカマたち。
「ママ・・・大丈夫かなぁ・・・」と心配する真に、トンボが「あんたは人のことより自分のことでしょ。病院は決まったの?」と話しかける。
実は真は高校を卒業した時点で、性転換手術を受けたいと、母・美津子(40)に打ち明けていた。しかしまだ未成年な上にお金も貯まっていないので、具体的にはなにも行動を起こせていなかった。しかも真は、自分は女なのだと打ち明けた日からずっと、父親からひと言も口を利いてもらえないでいたのだった。

第一幕/第三場

「カマナイト」に賭ける意気込みは半端じゃないオカマたちは、毎日毎日の厳しい稽古に耐えていた。
しかしここ数日、まじめな小雪が無断で店を休んでいる。電話をかけても留守電になるばかり。一体どういうことなのだろうと、稽古終わりにみんなで話をしていると、突然当の小雪が衰弱しきった様子で店に現れる。
心配をする一同を尻目に、小雪はひと言「カレンちゃんは?」とだけいい、カレンが現れた途端、その頬を思いっきり引っ叩いたのだった。
まじめで優しい小雪の変貌振りに唖然とする一同。騒ぎを聞きつけて琴美が姿を現すと、小雪は静かに「ママ、無断で休んでごめんなさい」と謝った。
琴美は「桜井さんとなにかあったのね?」と問いかけた。
琴美の問いかけに答えようすする小雪だったが、突然カレンが「私が原因なの」と、小雪の言葉を遮り話し始めた。
実は今、小雪の彼である桜井と自分は付き合っているのだと。
「私、男には全く不自由してないし、小雪ちゃんの彼を取るつもりなんて毛頭なかったんだけど、あまりにしつこいから」と応えるカレン。
そんなカレンに、「バカにしないで!」と声を荒げる小雪。
「私はそんなことを聞いてるんじゃない。私が聞きたいのは、カレンちゃんは桜井さんを愛してるのかってこと。いつものように、飽きたらすぐ捨てちゃうような、そんな付き合い方をしているのかってこと!」
なにも応えず、ただ「ごめん」と謝るカレンに、「謝らないでよぉ!」と泣きじゃくる小雪。
そんな小雪を、「ラーメン食べに行こ。ね、小雪ちゃん」と、その場から優しく連れ出す琴美だった。

第二幕

数ヶ月のときが流れ、真の睾丸摘出手術が迫ってきていた。
母・美津子は、今日こそは夫に、真の手術のことをいわなければならないと決意していた。
しかし哲也は、真の心は女なのだという事実を全く受け入れず、現実から背を向け、美津子との間にも深い溝が出来ていた。
真の告白から1年、美津子は真の性同一性障害を治すため、連日さまざまな病院を回っていたが、結局、治す=性転換手術という事実に直面するしかなかった。睾丸を取ってしまったら、もう真は自分の子供を作ることが出来ない。子供を持つというなにものにも変えがたい喜びを、あの子の手から奪ってしまう。だがこれ以上苦しんでいる真を黙って見ていることは出来ない。
ついに哲也に打ち明ける美津子だったが、その途端に取り乱し、妻に食って掛かる哲也。
「お前は俺の息子を女にするつもりなのか!」
そんな夫に「どんな姿になったとしても、真は私たちの子供です!」と言い切る美津子。
険悪な雰囲気の中、真が帰ってくる。父と母の張り詰めた空気を感じ、母がついに、父に手術のことを話したのだと察する。

母に「私が母さんたちの子供じゃなかったらよかったのにね」としかいえない真。
「何を言い出すのかと思ったら全くもう」と笑い出す美津子。
「子供のことで悩んだり考えたりするのは親の趣味なの。いつまで経っても手がかかって、私がいなくちゃダメなんだって思ってたいの。それを考えたら、あんたなんて理想の子なのよ」と微笑む美津子。
寝室に向かう母の小さな背中を見つめながら、真は黙って自分の平らな胸を触るしかなかった。

第三幕第一場

初めての「カマナイト」で優勝を逃してしまった「ピンクドルフィン」。
それでもその関連記事を読み、盛り上がる彼女たち。優勝目指し、必死で稽古をしたにも関わらず、小雪とカレンの件でチームワームがめちゃめちゃになり、10店中の5位に終わっていた。
あれから数ヶ月、カレンが桜井とちゃんと付き合っているのだとわかると、小雪は「すっきりした」といい、少しずつ2人の仲も元に戻ってきていた。
そんな矢先、突然かれんが桜井を振ったという事実が明かされる。
「どういうこと?」と詰め寄る小雪に、カレンは「振らなきゃならなかったから」と答える。実は桜井、カレンの初恋の相手だったのだ! 一途に彼を思い続けた彼女に対し、桜井はカレンの存在すら思い出さない。好きな相手に忘れ去られる辛さを味わって欲しかったとカレンは泣き崩れた。彼女の奔放に見えるその姿は、実は悲しさと、自分が女ではない苦しさの裏返しだったのだ・・・。

第三幕第二場

「カマナイト」のオーディションの日、真は琴美を呼び出し、家から出たいので許してほしいと願い出る。実は美津子が、哲也とこれ以上夫婦でい続けることに耐えられなくなり、離婚したいと言い出していた。真は自分が家を出れば、美津子も考え直してくれるのではと思っていた。
その時琴美は、自分の過去を語り始める。
琴美は自分が女であることを両親に打ち明けられず、18歳の時に家を出ていた。
今、母親は病気で寝たきりになり、琴美を探している。弟から頻繁にかかっていた電話はそのことだったのだ。
琴美は、自分が女であることは母親に知らせないでほしいと、ずっと弟に頼んでいた。しかし真を見ているうちに徐々に心が変わり始め、このオーディションが終わったあと田舎に帰り、母親に本当のことを告げる決意をしたのだ。
そして真には、自分のように信頼し合える家族がいないまま、年を取ってほしくないと語る。

そこにまた弟からの電話がかかる。琴美が電話を取りに行っている間、突然哲也が店を訪れる。心労がたたり、ついに美津子が倒れてしまったのだ。あまりのことに動揺する哲也は、無理矢理真を連れて帰ろうとする。哲也の強引な態度にオカマたちは大騒ぎ。
そんな中、電話を終えた琴美が戻ってくる。
哲也に気づき、「お久しぶりね」と穏やかに話しかける琴美に対し、頑なな態度を取り続ける哲也。
「真、早く来い!」と怒鳴る哲也に、「これからカマナイトのオーディションがあるから、まだ病院には行けない」という真。あまりのことに怒り狂い「お前は俺や母さんの気持ちを全然分かっていない!」と決め付ける哲也。
その時、今まで抑えてきた真の思いが爆発する。
「じゃあ父さんに私の気持ちが分かるの? 男の身体の中に、女の心を入れて生まれてきてしまった私の気持ちが父さんに分かる?!」それは初めて聞く真の心からの叫びだった。
琴美は昔、哲也から聞いた『真』という名前の由来を話し出す。
「あなたは言ったわ。真には、世間の変な常識に振り回されたりせず、自分と人を信じ、自分の心の『真』を貫ける人間になってほしいって」
「さっきね、母親が死んだの」と、琴美は静かに言った。
「・・・私はね、自分の心の『真』を一度も親に見せなかった。もう二度と、一生見せられない。・・・吉岡君、真は信じてるのよ。いつか分かってくれる、いつか信じてくれるって、ずっとずっと待ってるの。真はね、あなたが私を信用していると感じてここに来たの。分かる? あなたを信じてるから、真は私を信じたのよ! あなたがこの子にどんなに冷たく接しても、真はあなたを信じつづけた! 例えどんなことが起きたとしても、あなたを信じつづける事が出来る子に、真を育てたのはあなたじゃないの! 吉岡君! 私はね、真に私みたいになって欲しくないの! 家族のいる幸せを、この子から奪いたくないのよ!」
琴美の心からの叫びに、次第に哲也の中に、真が生まれた瞬間の喜びが蘇る。
「あの時は、嬉しかったな・・・。男でも女でも、真って名前にするって、ずっと前から決めてたんだ。男でも、女でも…」
そうつぶやく哲也の目は、優しく真を見つめていた。
そしてついに、カマナイトのステージの幕が上がる!

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