『PERSONAL MESSAGE』 シナリオ(第二場〜)

台本(第一幕)はこちら(PDF)≫

第二場

由紀に伴われて麻子が診察室に入って行くと、そこには、非常に驚いた表情で麻子を見つめる陽平がいた。
実は麻子は陽平の中学時代の同級生で、そればかりではなく、陽平にとっては初恋の相手でもあったのだ。しかし恋愛音痴の麻子は、そのことを告白されても「うそっ・・・」とぽかんとするばかり。

しばらく昔話をしたあと、診察に取り掛かる陽平。
眠れないのはいつからなのか覚えてる? との質問に、最初は小学4年の時だったと答える麻子。
原因はなんだと思う? と聞かれると、父親の死だと思うと答える。父親が死んでから、よく怖い夢を見るようになり、眠るのが怖くなったというのだ。
昔見ていた夢を最近も見るようになり、その原因は仕事のせいだと麻子はいった。
実は麻子、三友銀行の大量リストラにあたり、その人選を任されていたのだ。

第三幕

さつきは麻子に、『紫頭巾』の常連・青山源三(48)を紹介するため、メンタルクリニックの控え室に連れて来ていた。
源三は勤めていた信用金庫を、彼の困った性格のためリストラされたのだ。
実は彼、人と争う事が大嫌い。人を押しのけて何かをやり遂げるという事もできない。
ハーバード大学を卒業し、驚くほど多くの資格を持っているが、全ては趣味で取っただけといい、仕事に結びつける事が出来ないでいた。
そんな中、娘に玉の輿結婚の話が持ち上がる。相手の男性もとてもいい人だったが、妻に先立たれ、自分が結婚したらお父さんは1人きりになってしまうと考えた娘は、結婚をやめようかと言い始める。
父としてそんなことは絶対にさせられない、心配をかけないため、せめて就職だけは! と考えたのだ。
しかし48歳になっての再就職はかなり難しい。
特技はないのか? と聞かれ、人をなだめること! と断言し、『まぁまぁの源さん』と呼ばれていたなどと武勇伝まで話し出すが、どう考えても役に立ちそうもない。
そのうえストレスが溜まるので、時々夜中に100円ショップで買った皿を、地面に叩きつけて割るのだと、晴れ晴れした顔で言い出す始末。
「スッとするから皆さんも試してみて下さい」などという源三に、まずはその性格を直さなければとの結論に達する。

演劇療法をやってみたらいいのではないかと提案する美鈴。
詳しいことを知る人間はいなかったが、ここはメンタルクリニック。あとでちゃんとしたやり方を陽平に聞くこととし、今はなんとなくだけど、とにかくやってみようと言うことになる。
さつきは源三に、「みのもんた」になれと命令。嫌がる源三に、「人を押しのけ、ズバズバ物がいえて、70歳のおばあちゃんに向かって、臆面もなく『お嬢さん』なんて呼びかけられる『みのもんた』。彼しかいないのよ! さぁ、私に向かって『お嬢さん』っていって御覧なさい!」と迫るさつき。

第四幕

診察室では麻子の治療が続いていたが、寝不足のため、由紀が入れてくれたハーブティを飲んだあと、ソファでうとうとしてしまう麻子。
そのとき麻子は夢を見ていた。それは妹を捜す夢。
妹の理沙は、幼いころから目が不自由だった。しかし2年前に角膜提供があり、無事手術を終えて、もう少しで結婚することになっていた。

理沙は夢の中で、「私はもう大丈夫。目だって見えるし、好きな人もできた。私は幸せになる。お姉ちゃんももう私を気にせず、好きなことをしてね」と麻子に微笑んだ。
麻子は、そんな理沙を必死で呼び戻そうとしていた。
「勝手に1人で出かけちゃダメ。そっちにいっちゃ危ない。戻ってきなさい! 理沙!!!」

ハッと夢から覚める麻子。
一瞬自分がいる場所もわからない。そんな麻子をじっと見つめる陽平。
「野村が眠れなくなったのは、仕事のせいだって言ってたけど、本当は理沙ちゃんの目のことが原因なんじゃないの?」と静かに話しかける陽平。
麻子は突然「ごめん。もう帰るね」と立ち上がる。
そのとき、控え室から男の怒鳴り声が聞こえる。

第五幕/第一場

診察室に聞こえた怒鳴り声は、麻子にリストラされた、元三友銀行・本店営業部課長、坂上正人(48)だった。
銀行でもどこでも、自分が東大出身者だということだけを自慢に生きてきた正人は、麻子にリストラされたことを逆恨みし、探偵を雇って麻子のあとをつけてきたのだ。

「野村をここに出せ!」と怒鳴る正人。何事かと診察室から降りてきた麻子に対し、「俺はお前にせいで会社を首になった。お前のせいで、俺の人生もプライドもめちゃくちゃだ!」と怒鳴り散らす。
そして正人は、麻子がひた隠しにしてきたことを暴露する。「こいつは毎晩、ここらで男をあさってホテルに連れ込んでるんだよ! 今日写真と報告書を銀行に送ったよ。銀行も男あさりが趣味のOLを雇っておくはずないよな。お前も俺と同じ目にあわせてやる!」
思わず「やめてー!」と叫び、階段を駆け上がっていく麻子。

「いい加減にしろ!」ずっと事の成り行きを黙って聞いていた源三だった。
「銀行を首になったのは、あんたの仕事が役に立たないせいだろう。銀行だってバカじゃないんだ。いくら彼女があんたをリストラ対象にしたって、本当に必要な人材をやめさせるはずないだろう! 人のせいにするのもいい加減にしろ! 全て自分が今までやってきた結果なんだよ」
人と争うことを極端に嫌い、人を怒鳴ることなど一切してこなかった源三。その源三が顔を真っ赤にして怒っているところを見て、唖然とするオカマたち。

「だったら・・・どうすればよかったんだよ・・・」とつぶやく正人。
正人の母親は、正人を東大に入れることだけを考えて生きてきた。
『東大に入らなければ人とは認めない』、そういう家系だったのだ。
東大に入ればなにもかも上手くいく、幼いころからそれだけを息子に言って聞かせた母。
正人に植え付けられた母親の呪縛は、今直溶けることなく正人を縛ってきたのだ。
正人の心に、生まれて初めてといっていい疑問が生まれる。
「自分は何のためにがんばってきたんだ? 東大に入れば全てが上手くいくんじゃなかったのか? 仕返しをすればすっきりするはずだったのに、どうしてこんなに心が痛いんだよ!」

「何のためだったのかしらね」とさつきが言った。
「あなたがしてきたことの、一番で唯一の問題は、全てが自分の意思じゃなかったってことなのよ」
幼いころから、自分は他人と違うと気づいていたさつき。しかし人と違うことはいけないことだと思い込み、親のいうとおりに出来ない自分なんて価値がないと決め付けていた。
その思いが強すぎて、心が悲鳴を上げていることに気づいてやれなかった。
自分は何のために、誰のために生きているのかを見失っていた日々。そのことに気づいたさつきは、もう自分を取り繕うことを止めたのだ。

「でも、俺が今までやってきたことは!」
それでも過去にしがみつこうとする正人に、さつきは「いい加減に目を覚ましなさい!」と声をあげる。
「あなたはさっき、麻子さんがあなたのプライドをメチャクチャにしたって言ったけど、あなたには最初からプライドなんてないの。プライドって言うのはね、自分を尊敬する心なの。あなたの心が、どれだけあなたの事を尊敬してるのか、愛するに値する人間だと思ってるかって事なのよ。たかがリストラにあったくらいでメチャクチャになるようなもの、プライドとは言わないの。そんなちゃちでくだらないもの、さっさと捨ててしまいなさい!」
うなだれる正人の肩をそっと叩きながら、「大丈夫。私だってできたもの、あなただってできるわ。そうでしょ?」とさつきはいった。

第五幕/第二場

麻子が診察室に逃げ込んでから、1時間ほどが経とうとしていた。
そこへ突然、麻子の母・良子(52)がやってくる。何でも麻子が、来月に迫った妹・理沙の結婚式に出ないといっているらしいのだ。何度連絡を取ろうとしてもつかまらないという良子。
母親を今の麻子に会わせるわけにはいかないと考えたさつきは、さりげなさを装い『紫頭巾』に連れて行こうとする。その騒々しさに、控え室まで下りてきた陽平。
「野村は来ていませんよ」との答えに、「麻子! いるんでしょ?! 出てらっしゃい!」と、強引に診察室に乗り込もうとする良子。

良子の声を聞きつけ、麻子が青白い顔のまま診察室から出てくる。
良子は麻子の変化に気づかないまま、なにが何でも理沙の結婚式に出ろとまくし立てる。
「理沙は今まで、自分のやりたいことを全て我慢してきたの! そんな理沙がやっと幸せになれるんじゃない。どうしてそういうことわかってやれないの? 理沙がかわいそうだと思わないの?!」
「理沙なんて生まれてこなければよかったのよ!」と、突然切れたように叫びだす麻子。

いつでもどんな時でも、全ての関心を理沙に向けていた良子。
良子の目には、いつも理沙だけが映っていた。麻子が母親からの関心を得るためには、ただただ理沙の面倒を見るしかなかったのだ。
そんな20年という月日を送るうちにねじれていった麻子の心。
想像の中で、夢の中で、何度も何度も理沙を殺した。時には現実と想像がごちゃ混ぜになって、理沙を風呂場に連れて行き、お湯に沈めそうになったこともある。
それでも、理沙という存在があったから、母は私を見てくれた。
でも、理沙の目が治り、自分の元から居なくなった今、自分にはもう居場所がない。私は誰にも必要とされない。理沙の目が治ると聞かされた日からずっと、もうずっと眠れない。
「誰でも良かった。傍に居てくれるなら誰でも。麻子が必要だって言ってほしかった。たった一人で怖い夢と戦うくらいなら、自分の身体が壊れた方がましだもの!」
麻子は居場所が無くなるという恐怖から、セックス依存症になっていたのだった!

髪を振り乱し、泣き崩れる麻子に、「周りをちゃんと見てみろ。いつだってお前が必要だって言ってる。お母さんの評価が全てじゃない。お前がお母さんしか見てなかったんだよ。目をつぶって見ようとしなかったのはお前なんだ。目を開けろよ、野村。大丈夫、ちゃんと傍に居るから」と優しく語り掛ける陽平だった。

第五幕/第三場

一年後・・・。
麻子の結婚式の写真を持ち寄り、クリニックの控え室でわいわい楽しそうに騒ぐいつものメンバー。
なんと麻子は、気分転換にと陽平が連れて行った、中学の同級生との飲み会で、陽平をイジメていた武藤と運命的な再会を果たし、電撃的に結婚をしてしまったのだ! そのうえ今は、彼の転勤先であるNew Yorkに住み、妊娠中でもあるのだった!

麻子は陽平と付き合うと、誰もが思っていただけに、急転直下のまさかの展開に、ひどい落ち込みようの陽平。
その落ち込みを助長するかのようなメールが、New Yorkの麻子から届く。
「岩田君は私にとって、最高の友達であり、最高の先生でした。本当に本当にありがとう! 心からの感謝を送ります。・・・追伸。もし子供が男の子だったら、陽平って付けていいですか? 野村改め、武藤麻子」

机の上のパソコン画面をじっと見つめ、「俺はいったい、いつになったら最高の男になれるんだよぉ!」と叫ぶ陽平だった。

▲このページのTOPへ

連載モノ

連載小説
携帯公式サイト「The News」で連載され、約10,000アクセス/dを記録した「14番目の月」。 大好評連載中!
日記
夢野さくらのブログ。
日常生活が覗けちゃう・・・かも
稽古場日誌
この公演はいかにして創られたのか!
稽古風景をちょっとだけ紹介しちゃいます。
 All written by: 夢野さくら